『余命十年』区切りごとに綴られている言葉 ~後半~
11
今一瞬ですべてが叶うことをいつも願ってる。
すべては自分で選んで自分で進まなきゃいけないって、いっぱいいっぱい痛い思いをして、その傷で知ったはずなのに、心はいつも晴れない。全部手に入れた人って何が見えるんだろう。
わたしは何が欲しい?
ああ、時間か。一番いらないものだったはずなのに浮かんだ選択肢。同時に浮かぶあの人の笑顔。
命に執着を持っちゃダメよ。
死ぬことが怖くなったら、わたしはもう笑えなくなるんだから。
12
楽しかった一日の終わりに、どうしてわたしは泣くんだろう。
楽しんだ者勝ちの人生のはずなのに、カズくんといると楽しい後は必ずつらい。楽しい分だけつらい。
つらいのに、もう会いたい。
恋愛感情なんて、一番最初に殺したはずだったのに。
どうかわたしに、死にたくないと思わせないで。
13
いったい幾夜誰かの声に袋叩きにされるのだろう。
会いたくてたまらなかった。わたしがもっと強くて健康で、ずっとそばにいられる人だったら今すぐ傍にいって、負けそうなあなたを抱きしめて、守ってあげるのに。
わたしの両手はあまりにも頼りなくて不安定で、あなたを抱きしめることもできない。
わたしじゃ足りない。
あなたには足りなすぎる。
14
ごめん
ごめん
ごめん
みんなごめん
誰か背負ってと投げやりになったこともあったけれど、やっぱり誰にも背負えないのがそれぞれの人生だから。
カズくんに出逢ってそれがよくわかった。
だからごめん。
美弥の手、すごく荒れてたね。働く人の手をしてた。頑張れ美弥。あの店が繁盛することをいまは素直に願える。
奈緒の幸せを、サオリの幸せを、今は素直に願える。
傷つけてはじめてわかった。
みんなのこと大好きだったって。
みんなは何も悪くなかったって。
ごめん
ごめん
ごめん
15
命が恋しくて、時間がいとおしくてたまらない。
愛する人と別れることが死だと思った。
けれど、いとおしいと思えた自分と別れることも死なんだよね。こんなことならもっと自分を大切にすればよかった。わたしを一番大事にできるのは、わたししかいないんだから。
もっと早く、いろんなことに気付けたらよかったな。
16
カズくんが好き。でもそれだけじゃ、終わらない。終わらせることはできるけれど。
今始まったばかりなのにな。
17
愛してるって、むせ返るほど苦しい。重くて深くて溺れてしまう。
溺れるときは一人で沈まないと。和人に手を伸ばさない覚悟を決めないと。
さあそろそろ。
死ぬ準備を始めなくては。
18
わたしの願いに『二人』はない。
どうか和人が幸せでありますように。七夕の朝、商店街にあった笹に短冊を結んだ。
それがわたしのたった一つの願い。
祈ることしかできないわたしの、願い。
19
限界だった。嘘をつくのは疲れた。だからもう眠りたかった。
それは諦めじゃなくて、走り終えた疲労感。だからとても疲れていたけど、満足はしていたの。
あとは大好きな人たちにありがとうを告げて、だからもう、眠らせて。
20
死ぬことだけが安息だった私をあなたが生きさせてくれた。
だからわたしは死ぬことが怖くなったの。
死んでしまうことが怖い。
だからこそわたしは、自分が今生きていることを実感できたんだよ。
和人ーありがとう
21
死ぬ準備はできた。
あとは心を全部綴ってきたこのノートを捨てるだけ。
あと3年、やってみるよ。和人に教えてもらったから。
生きてるのがこんなに愛しいことだって。
死ぬ準備はできた。
だからあとは精一杯、生きてみるよ。